食道裂孔ヘルニアについて
人間の胴体は、胸腔と腹腔という2つの空間に分けられています。胸腔には肺や心臓があり、腹腔には胃、肝臓、胆のう、膵臓、小腸、大腸、腎臓、膀胱などが含まれます。
胸腔と腹腔の間は横隔膜によって隔てられています。
食道は口から入った飲み物・食べ物を腹腔にある胃に運ぶため、横隔膜に開いた狭い食道裂孔を通過します。
食道裂孔ヘルニアは、食道裂孔から胃の一部が胸腔に突出してしまう病気です。胃の上部が全体的に上にずれているのが滑脱型、胃壁の一部が袋状に飛び出しているのが傍食道型と呼ばれます。
これら両方の特徴を持つ混合型もあり、3つのタイプに分類されます。
食道裂孔ヘルニアの症状
食道裂孔ヘルニアを発症しても、症状を引き起こさないことは決して珍しくありません。その場合、治療は不要です。
しかし、食道裂孔ヘルニアがあると、胃の内容物が食道に逆流しやすくなり、逆流性食道炎の発症や再発のリスクが高まります。
逆流性食道炎が発生すると、胸やけ、呑酸(どんさん)、つかえ感、咳などの症状が見られます。
逆流性食道炎が重症化すると、嚥下困難や嚥下時の痛みを引き起こすことがあります。また、逆流性食道炎の再発が頻繁に起こると、食道粘膜が胃粘膜のようになる「バレット食道」が発生し、バレット食道がんのリスクが高まるとされています。
さらに、稀にですが食道裂孔ヘルニアが重症化した場合、胸腔を圧迫して胸部圧迫感や動悸、息苦しさ、呼吸困難などの症状を引き起こす可能性もあります。
食道裂孔ヘルニアの診断方法
胃カメラ検査では、食道裂孔のゆるみや噴門部の隙間、食道と胃の接合部が胸腔に突出している様子が確認できます。
また、粘膜の状態もチェックできるため、食道粘膜の炎症やその度合い、バレット食道がないかも調べられます。
さらに、疑わしい組織を採取して病理検査を行ってから確定診断をつけることも可能です。
また、胸部X線検査、造影剤を用いた腹部X線検査、CT検査などによって診断がつくこともあります。
食道裂孔ヘルニアの治療方法
自覚症状が見られない場合、治療は不要です。
逆流性食道炎の症状が見られる場合は、食生活を含む生活習慣の改善や薬物療法による治療を行います。症状そのものが薬物療法で改善できた場合でも、再発防止を目指すためにも、生活習慣の見直しは欠かせません。
なお、保存的療法を継続しても改善が見られなかった場合や、胸腔の圧迫による呼吸困難や動悸などの症状が現れた場合には、他の治療法を提案します。